創部100周年記念ページ 管弦楽団第61回定期演奏会曲目解説

ブログ 2022年5月22日

ついに、創部100周年記念 管弦楽団第61回定期演奏会(通称:オケ春)の開催まで、後7日となりました!
今回のブログでは、曲目解説を公開いたします!
5月16日公開の「選曲インタビュー」に引き続き、楽事委員長の本田千遥、そしてコンサートミストレスの東本響が執筆いたしました。このページでは、全3曲の解説文を公開いたします!どれも力作ですので、ぜひご覧ください。


M. ラヴェル 古風なメヌエット

『古風なメヌエット』はフランス出身のモーリス・ラヴェルが20歳の頃にピアノの独奏曲として作曲し、のちに管弦楽曲として編曲した楽曲である。管楽器は2管編成となっており、木管楽器の豊かな音色と弦楽器のなめらかな旋律が交互に曲が展開される。冒頭ではメヌエットならではの舞曲らしい軽快なステップが表現され、中盤において奏でられる情感溢れるメロディーは曲全体を通して繰り返される。本作品は時代を超えた様々な音楽の特徴が表現されており、『古風なメヌエット』という題名には、伝統的なメヌエットの構造と近現代音楽を作りあげた音楽家の一人であるラヴェルが繰り広げる、伝統と新奇性の融合が詰め込まれているように思う。

楽器編成

フルート2、ピッコロ、オーボエ2、コールアングレ、クラリネット2、バスクラリネット、ファゴット2、コントラファゴット、ホルン4、トランペット3、トロンボーン4、テューバ、ティンパニ、ハープ、弦五部

参考文献

マルグリット・ロン 著 ピエール・モロニエ 編(北原道彦・藤村久美子)『ラヴェル』—回想のピアノ(音楽之友社、1985年)

文責:コンサートミストレス
ヴァイオリン3年 東本響


G. ビゼー アルルの女

ジョルジュ・ビゼーによって作曲された『アルルの女』は、アルフォンス・ドーデの小説に基づく劇付随音楽から抜粋、改訂され作られた全27曲の楽曲である。中でも、編曲された第一組曲と第二組曲は世界中のクラシックファンに長きに渡り愛されている作品である。第一組曲はビゼー自身がオーケストラ用に作成し、第一組曲はビゼーの死後、彼の友人であるエルネスト・ギローによって編曲された。一般的にオーケストラではあまり使用されないアルトサックスが登場する点が本作品の特徴である。

物語の舞台は南仏プロヴァンス。主人公である豊かな農家の若者フレデリは都会の自由な女性、アルルの女に夢中になり結婚を望む。しかし彼の家族は村の純朴な娘、ヴィヴェットとの結婚を促す。ある日、アルルの女が自分の情婦であるという馬の番人の男がやってきたことによりフレデリは嘆く。しかし、予てより周りから勧められたヴィヴェットとの結婚を受け入れ、婚礼をあげる運びとなる。ところが再び現れた馬の番人に激しく嫉妬をし、最終的にはバルコニーから身を投げ自ら命を絶ってしまう。

第一組曲

「前奏曲」

行進曲の速さを意味する​​Tempo di marciaという音楽記号があり、行進曲風の勇ましいメロディーが有名である。曲冒頭の力強い主旋律は​​プロヴァンス民謡『三人の王の行列』から引用されており、​終盤に進むにつれどこか物悲しいような旋律が繰り広げられる。

「メヌエット」

3/4拍子の曲調で軽快なメロディーと共に序盤から終わりにかけてテンポよく進む曲である。オペラにおいては第三幕への間奏曲である。

「アダージェット」

弦四部で演奏されるこの曲は弦楽器の豊かな音色が特徴的である。バレエでは登場人物のかつての恋人同士が抱擁するシーンであり、男女の恋心がゆったりとした音色と共に感傷的に表現されている。

「カリヨン」

曲の名前にあるCarillonとは教会にある鐘を意味し、曲冒頭ではホルンがこの華やかな鐘の音を飾る。これは主人公フレデリとヴィヴェッタの婚約を祝う曲であり、祭りを想起させる賑やかな曲調で展開されていく。

第二組曲

「パストラール」

冒頭の主題が曲全体を通して繰り返される。中盤における小鳥のさえずりのようなフルートの旋律が印象的である。

「インテルメッツォ」

重厚感溢れる旋律で曲が始まり、アルトサックスの郷愁漂うメロディーはプロヴァンス地方の自然豊かな情景を思い起こさせると同時に、ふるさとで過ごした若かりし時代にまるで誘われているかのような気持ちにさせられる。

「メヌエット」

この曲はビゼーのオペラ『美しいパースの娘』から抜粋されたものである。有名なフルートソロの旋律と、ハープとの掛け合いがとろけるように美しい。

「ファランドール」

第一組曲「前奏曲」冒頭の力強い行進曲から再び曲が始まる。ファランドールとはプロヴァンス地方の舞曲のメロディーであり、フルートとピッコロの軽やかな演奏が見どころである。終盤では多くの人がどこかで耳にした事がある有名な二つの旋律が並行して演奏され、非常に華やかなクライマックスで終わりを迎える。

この作品の興味深い点は「アルルの女」が最後まで登場しないことである。正解がない分、聞き手にそれぞれが抱く「アルルの女」を想像させようと作者は考えたのではないだろうか。本公演をもとに多くの方に貴方自身のアルルの女を想像していただけたら幸いである。

楽器編成

フルート2、ピッコロ1、オーボエ2、コーラングレ1、クラリネット2、ファゴット2、アルト・サクソフォーン1、ホルン4、コルネット2、トランペット2、トロンボーン3、ティンパニ、スネアドラム、シンバル、バスドラム、プロヴァンス太鼓、ハープ、弦五部

参考文献

ジョン・バロウズ・芳野靖夫 監修『クラシック作曲家大全』—より深く楽しむために—(株式会社日東書院本社、2013年)
藤堂清著 東京芸術劇場コンサートオペラ vol. 8​ 2022年1月8日 曲目解説

文責:コンサートミストレス
ヴァイオリン3年 東本響


C. サン=サーンス 交響曲第3番“オルガン付き”

本作品は、フランスの新古典主義の作曲家であるカミーユ・サン=サーンス(1835-1921)が手掛けた交響曲である。20代半ばで交響曲第2番を完成させてから、四半世紀以上を経て着手されロンドンのフィルハーモニー協会の委嘱作品として制作された。

サン=サーンスは、1835年10月9日にパリで生まれた。父を生誕後数か月で亡くし、母とピアニストであった叔母に育てられた。2歳でピアノを弾き始め、3歳で作曲を始めた「神童」である。10歳でコンサートを開催、13歳にはパリ音楽院に入学しオルガンと作曲を学んだ。最初の交響曲を書いたのは15歳である。若くして演奏や作曲に高度な技術を身に着けた彼は、交友関係も広く様々な分野で活躍をした。オルガニストとしては、栄誉あるマドレーヌ教会のオルガニストを20年間も長きにわたって務めた。リストが「世界最高」と絶賛した即興演奏の名手であった。

サン=サーンスが作曲した交響曲は断片的な物を除くと全5曲である。うち、交響曲に番号が付けられたのは3曲。4曲は青年期に作曲され、最後の第3番を作曲するまでに27年間の時間を要しているのだ。

交響曲以外には、《オンファールの糸車》《ファエトン》、《死の舞踏》などの管弦楽曲や、《サムソンとデリラ》《ヘンリー8世》《プロセルピーヌ》などオペラ作品だけでなく、協奏曲(ピアノ協奏曲5、ヴァイオリン協奏曲3、チェロ協奏曲2、弦楽四重奏、ピアノ三重奏)をはじめ様々であり、「組曲《動物の謝肉祭》」なども馴染み深いのではないだろうか。

一作品目は1850年、わずか15歳の時に作曲した「交響曲」イ長調である。1853年作の交響曲変ホ長調は「第1番、op. 2」として出版された。1856年には「交響曲《首都ローマ》」ヘ長調、1859年に交響曲イ短調(第2番、op. 55)を作曲した。そして1886年交響曲第3番が作曲された。

普仏戦争の敗戦直後1871年にフランク、フォーレらとともにフランス国民音楽協会を創設し、フランス音楽の振興を図ったが1886年、50歳の時にフランクたちとの意見の相違が原因で脱会した。その年の5/19に自身の指揮でロンドンにて初演された曲が、交響曲第3番なのである。翌年のパリ公演においても大盛況を納め、サン=サーンスにとって最大の成功作と呼ばれている。

この作品の大きな特徴は二つある。
一つ目は、“オルガン付き”の愛称で親しまれていることからも明らかであるが、オルガンが使用されていることである。ピアノも用いられており、サン=サーンスのオルガニストやピアニストとしての特性がよく活かされている。大規模な3管編成でありながら、全体の響が澄んで聴こえる巧みな構造である。

二つ目は、やや珍しい二楽章で構成されていることである。伝統的な四楽章構成に反しているが、それぞれの楽章が二つの部分から成り立つ、実質四楽章なのである。初演の際に一緒に演奏された、1875年作、「ピアノ協奏曲第4番」においても同様に全二楽章形式でありながら、各楽章が分かれた実質四楽章で構成されている。

さらに、交響曲第3番には循環主題と呼ばれる統一主題が全曲にちりばめられ、全体を緊密にまとめあげている。その高度な作曲技法をドイツ音楽の精髄である交響曲に取り込み、そこにフランス的な精妙な響きを融合させたのだ。なおサン=サーンスはこの作品を、彼のオペラ『サムソンとデリラ』の初演を援助してくれたリストに捧げようとしていた。しかし、その直前にリストが亡くなってしまったため、スコアには「F. リストの思い出に」と記されることになった。

第一楽章

《前半》アダージョ―アレグロ・モデラート、ハ短調、6/8拍子。

冒頭、序奏で弦楽器と木管楽器の演奏した神秘的な第一主題が、主要主題として緊張感の高い楽章をかたち作っている。細かい音型の不安げなこの旋律は弦楽器から木管楽器に受け継がれ循環主題となる。やがて金管楽器が加わりクライマックスへと向かう。静寂へと向かい、一楽章後編へと誘導される。

《後半》ポーコ・アダージョ、変ニ長調、4/4拍子。

三部形式で、夢幻的なオルガンに乗せて甘美な旋律が歌われる。
オルガンと調和した新たな瞑想的な主題の絶妙な組み合わせはとても神秘的である。主題が弦楽器から、管楽器(クラリネット・ホルン・トロンボーン)に移り弦楽器の対旋律が演奏される。オルガンのブリッジに続く中間部でヴァイオリンが変奏した主題を紡ぎだす。

第二楽章

《前半》アレグロ・モデラート、ハ短調、6/8拍子―プレスト、ハ長調—アレグロ・モデラート、ハ短調—プレスト、変イ長調。

通常のスケルツォに当たる音楽で、巧みなリズムの組み合わせによって構成される。
弦楽器と木管楽器が激しい対話を繰り広げる。力強いアレグロ・モデラートの次には、プレストに入り木管楽器の跳ね回る旋律と軽やかなピアノが走句を奏でる。再度この対照的な演奏が二回繰り返される。

《後半》マエストーゾ、ハ長調、6/4拍子—アレグロ、ハ長調、2/2拍子。

全曲を支配してきた循環主題が複雑に絡み合わされており、オルガンが活躍する荘厳で華やかな楽章となっている。オルガンが荘厳なハ長調の和音を奏で、弦楽器とオルガンに呼応し金管がファンファーレを奏でる。最後はオルガンとオーケストラによる力強い演奏が壮大な音楽の中で幕が下りる。

作曲年代:1886年
初演:1886年5月19日、ロンドン

楽器編成

フルート3(3番はピッコロ持ち替え)、オーボエ2、コーラングレ(イングリッシュ・ホルン)1、クラリネット2、バス・クラリネット1、ファゴット2、コントラファゴット1、ホルン4、トランペット3、トロンボーン3、チューバ、ティンパニ、大太鼓、シンバル、トライアングル、オルガン、ピアノ連弾、弦五部

参考文献

池辺晋一郎「池辺晋一郎の大作曲家の音符たち 傑作ア・ラ・カルト⑲ サン=サーンス「交響曲第3番《オルガン付き》」、『音楽の友』、音楽之友社、2019年10月号
満津岡信育「究極のオーケストラ超名曲 徹底解剖4 サン=サーンス 交響曲第3番《オルガン付き》」、『レコード芸術』、音楽之友社、2007年9月号

文責:楽事委員長
トロンボーン3年 本田千遥


創部100周年記念 管弦楽団第61回定期演奏会
2022年5月29日(日)14時開演。すみだトリフォニーホール大ホール。指揮:阿部未来、オルガン:石丸由佳。サン=サーンス/交響曲第3番ほか。The 100th Anniversary: 61st Regular Concert of Gakushuin Music Society Orchestra.

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