管弦楽団第60回定期演奏会リモート会場
こんにちは!学習院輔仁会音楽部管弦楽団です。
この度は管弦楽団第60回定期演奏会リモート会場にお越しいただきまして、誠にありがとうございます。
東京芸術劇場にご招待することは叶いませんでしたが、皆様の心に届くよう、精一杯演奏いたします♫
どうぞ最後まで楽しんでお聴きください!
本会場での注意事項
- 本リモート会場内では飲食可能でございます。お好きなものをご用意ください。
- 未就学児のお客様もご入場いただけます。どなたでもお楽しみください。
- ご利用の端末の電源はオンにしていただきますようお願いいたします。
- 部屋を明るくして、画面から離れてご覧ください。
- 映像等の保存、撮影、転載等はご遠慮ください。
- お好きなタイミングで拍手をしていただけます。
- お声を出しての応援も大歓迎でございます。
- 途中入場・退場していただいてかまいません。
- 演奏中のおしゃべりもご遠慮なくどうぞ。
プログラム
チャイコフスキー/スラヴ行進曲
この作品は、ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー(1840–1893)が1876年に彼の恩師であるニコライ・ルビンシテインの依頼を受けて作曲されたものである。初演もルビンシテインの指揮でロシア音楽協会モスクワ支部第1回交響楽演奏会にて行われた。
作曲された当時、セルビア=トルコ戦争が勃発しロシアは同じスラヴ民族であるという意識からセルビアを援助していた。負傷兵を救援していたスラヴ慈善委員会の活動を支援するためにニコライ・ルビンシテインは慈善演奏会を企画し、この曲はその演奏会で演奏するために作曲された。チャイコフスキーは依頼されてから約1週間でこの曲を書き上げたと言われている。
この曲には3つのセルビア民謡と帝政ロシア国歌が盛り込まれている。冒頭は「葬送行進曲のように」という指示があり、主題の民謡「太陽は明るく続かず」の旋律が奏でられる。次第に感情が高まってゆくがやがて静まり、静まったところで木管楽器の「懐かしいセルビアの戸口」と力強い「セルビア人は敵の銃を恐れない」が続く。そして帝政ロシア国家が奏でられた後に冒頭の民謡主題が戻ってくる。終結部は快活な音型と帝政ロシア国歌が混ざり、荘厳でかつ激しい行進曲が爆発的に進みクライマックスを迎える。
初演は観客が皆立ち上がり、歓声が飛び交い、感動のあまり泣いている人もいたようである。チャイコフスキーは「嵐のような愛国的歓喜を巻き起こした」と彼の妹の手紙に書いたという。
楽器編成
ピッコロ2、フルート2、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、ホルン4、コルネット2、トランペット2、トロンボーン3、テューバ、ティンパニ、小太鼓、大太鼓、シンバル、タムタム、弦5部
参考文献
- 中島克磨『チャイコフスキー スラヴ行進曲 作品31』全音楽譜出版社、2017年
- 宮澤淳一 東京フィルハーモニー交響楽団2019年3月定期演奏会 曲目解説
- 林昌英 ロシア国立交響楽団《シンフォニック・カペレ》2019年来日公演 曲目解説
文責:コンサートマスター3年 関矢雄太
ボロディン/歌劇「イーゴリ公」より「韃靼人の踊り」
アレクサンドル・ボロディン(1833–1887)はロシア五人組のメンバーでもある作曲家であり、同時に医科大学の教授も務めた化学者であった。そんなボロディンの代表作が歌劇「イーゴリ公」である。
イーゴリ公は全4幕の歌劇であるが、ボロディンの生前には完成されなかった。彼はペテルブルグの医科大学の教授で多忙を極めており、その結果このイーゴリ公の作曲も思うように進まず長期間に断続的に作曲は行われた。しかし作曲を始めて18年後の1887年にボロディンは心臓麻痺で急死してしまった。その後イーゴリ公は、リムスキー=コルサコフとグラズノフの手によって上演できる形に整えられ、ボロディンの死の3年後である1890年にマリインスキー劇場にて初演されることになる。
今回演奏される「韃靼人の踊り」は第2幕の最後に、敵の虜囚となったイーゴリ公と息子の前で歌と踊りが披露される場面において演奏される曲となっている。この曲は合唱を伴って単独で演奏されることも多い。なおこの曲は日本では「韃靼人の踊り」と一般的に呼ばれることが多いが、英語では‘Polovtsian Dances’と表記され、これをそのまま和訳すると「ポロヴェツ人の踊り」となる。ポロヴェツ人とは11世紀に黒海北岸から南ロシア地方に姿を現したチュルク系の遊牧民のことである。韃靼人とはタタール人の中国名であって、イーゴリ公に登場する民族とは異なる。つまり正確にはこの曲は「ポロヴェツ人の踊り」と表記するのが正しいといえよう。しかし日本の演奏会では「韃靼人の踊り」と言われることが多く、今回の演奏会でもこの呼び方を使用する。
曲の構成はまず短い序奏があり、その後オーボエやイングリッシュホルンと合唱(今回は無し)が「娘たちの流麗な踊り」の旋律を奏でる。同じメロディをヴァイオリンが奏でたのちに、一転して「男たちの激しい踊り」に転じる。ここではまずクラリネットのソロが活躍したのちフルート、ピッコロに受け継がれ、さらに弦楽器が同じ旋律を続いて演奏する。そして小休止を挟み「全体の踊り」と「奴隷たちの踊り」が演奏される。ここではポロヴェツの君主である汗(読み方:ハン)コンチャークの威光を讃える音楽で盛り上がり、クライマックスに達した後短い後奏を挟んで音楽は一回落ち着く。そして小太鼓とヴァイオリンの‘saltando’という奏法で演奏されるリズムが始まると「少年たちの踊り」となる。その後「男たちの踊り」が挿入され、これらの組み合わせを転調してもう一度繰り返すと冒頭の「娘たちの流麗な踊り」が最初よりも大きく奏でられる。それが終わると再び「少年たちの踊り」「男たちの踊り」が戻り、もう一度繰り返されたのちに壮大なコーダとなり、曲は締めくくられる。
先述のように歌劇のイーゴリ公全体はボロディンの手だけで完成されたわけではないが、この韃靼人の踊りはボロディン自身が作曲し、オーケストレーションも完成させていた物である。
楽器編成
ピッコロ、フルート2、オーボエ2(イングリッシュホルン持ち替え)、クラリネット2、ファゴット2、ホルン4、トランペット2、トロンボーン3、テューバ、ティンパニ、小太鼓、大太鼓、タンブリン、トライアングル、シンバル、グロッケン、ハープ、弦5部
参考文献
- 森田稔『ボロディン ポロヴェツ人の踊りと合唱(ダッタン人の踊り)オペラ《イーゴリ公》より』全音楽譜出版社、2018年
- 宮澤淳一 東京フィルハーモニー交響楽団2018年5/6月定期演奏会 曲目解説
- 林昌英 ロシア国立交響楽団《シンフォニック・カペレ》2019年来日公演 曲目解説
文責:コンサートマスター3年 関矢雄太
ドヴォルザーク/交響曲第8番
本作品は、チェコの作曲家であるアントニン・ドヴォルザーク(1841–1904)が手掛けた交響曲。1889年8月26日にボヘミアのヴィソカーという小さな村に建てた別荘でスケッチをはじめ、11月8日、プラハにて完成した。初演は1890年。
この交響曲はイギリスで絶大な人気を博していたためにしばしば《イギリス》と呼称されることがあるのだが、それはたんに人気によるものではない。
ドヴォルザークは、かねてからブラームスの紹介でジムロックというベルリンの有力な出版社と契約していた。これまでは自分の経済状態や知名度を考えてジムロックの意に沿うようにしてきたが、ドヴォルザークが作曲家として軌道に乗ってくると、売れ行きのいい小品の作曲ばかり注文するようになり自分の希望する交響曲やオペラといった大曲の出版にはなかなか応じないジムロックとの間に溝が生まれてくる。
そのあたりのところでロンドンの出版社ノヴェロに売り渡したのが、この《交響曲第8番》なのである。1884年にはじめてイギリスを訪問したころからノヴェロの社長リトルトンとは親交があった。ドヴォルザークは生涯に9回もイギリスを訪れている。
上記のエピソードからもうかがえるように、《交響曲第8番》では、これまでのドヴォルザークの交響曲にはない方向へと舵をきった。彼自身、「新しい方式で算出された個性的な楽想をもつ、他の交響曲とは違った作品」とのべている。古典的なソナタ形式の伝統にしたがいつつも、垣間見える意外な構成と自由な内容にはスラヴ民族の精神性や情熱、霊感、魂が強くこめられているのである。
第1楽章 Allegro con brio ト長調4分の4拍子
チェロ、クラリネット、ホルンによる優美でしっとりとした、どこか物憂げなト短調の旋律で幕を開ける。楽想が独立しているように感じられるうえ、この第1楽章の主調はト長調であることから、この旋律は序奏ととらえることが多いようだが、第1主題の第1句であるという解釈もなされており、見解が分かれる。やはり伝統的なソナタ形式でありながらもはじめから独創的なのである。フルートが印象的な第1主題を快活なリズムで奏で、この動機が輝きを増してドラマティックに繰り広げられていく。第2主題の第1句はロ短調で木管にあらわれ、こちらもリズミック。それからホルンとファゴットに導かれて、やわらかく第2主題の第2句がやってくる。提示部が消えるように終わると再びト短調の序奏が静かに流れ、展開部へ。第1主題を中心に、強烈な和音が曲を活気づけ勢いは増していく。再現部にそのままなだれ込み、トランペットが高らかに序奏の回帰を告げる。それからすぐに静かになり、イングリッシュホルンによる第1主題第2句。もう一度第2主題が繰り返され、小結尾もそのまま再現される。最後まで生き生きとして輝かしい。
第2楽章 Adagio ハ短調4分の2拍子
あたたかくやわらかい田舎の情景を思わせるような弦の旋律で始まる。明るいハ長調になると、かわいらしく爽やかなフルートとオーボエの詩的なメロディがすこし忙しい弦の音型に乗り、ヴァイオリンのソロが現れる。次第に感情が高まり、全体が熱を帯びてきたと思えば弦によって静かな旋律が奏でられ、木管による小鳥の鳴き声が聞こえてくる。そのあとにはまた力強く冒頭の旋律が違ったイメージでもどってくるが、けっきょく静かに、消えるように終わる。不規則な3部形式で、最初から最後まで独創的な、ドヴォルザークらしい楽章といえる。
第3楽章 Allegro grazioso ト短調8分の3拍子
ユーモラスなスケルツォではなく、キャラクターの愛らしさが際立つワルツ風の楽章。3部形式。木管の動きのうえに、優美な主題をヴァイオリンがなめらかに奏でる。この旋律が何度か取り扱われると、オーボエとフルートがのどかな情景を浮かびあがらせるようにトリオの主題をだす。この中間部の朗らかな旋律は、ドヴォルザークが1874年に書き上げた1幕もののオペラ《がんこな連中》から転用されたものである。これが反復されたのちに第1部のワルツ風の部分へ戻り、コーダは中間部に示した旋律をもとにして構築され、静かに終わる。
第4楽章 Allegro ma non troppo ト長調4分の2拍子
ソナタ形式風の自由な変奏曲。トランペットによるファンファーレで曲は始まる。これは当初のスケッチでは予定されておらず、総譜におこす際に書き加えられた。ティンパニのソロを経て遠ざかるように消えると、第1楽章から導かれた主題がチェロによって軽やかに、かつ少し民族風に現れる。落ち着いたテンポのまま各楽器が役割を変えて数回変奏すると、次は勇ましく、速く変奏される。ホルンのトリルが印象的。軽やかで魅惑的なフルートソロの反復進行がオーケストラを勢いづけて活発になると、ハ短調のジプシー風かつ原始的な旋律が第2主題として登場する。この主題をもとに変奏が次々に騒然と繰り広げられ、短い展開部の変奏が終わるとト長調の強烈な和音。導入のファンファーレが戻ると、チェロがより明瞭に主題をあらわし、再現部に入る。またしばらく落ち着きのなかで変奏が行われたのち、全曲の結尾へ向かう。輝かしく彩色され、喧騒の中スピード感を持ったまま終わる。
楽器編成
フルート2(ピッコロ持ち替え)、オーボエ2(イングリッシュホルン持ち替え)、クラリネット2、ファゴット2、ホルン4、トランペット2、トロンボーン3、テューバ、ティンパニ、弦五部
参考文献
- 内藤久子『作曲家 人と作品シリーズ ドヴォルジャーク』音楽之友社、2004年
- 佐川吉男ほか『作曲家別 名曲解説ライブラリー』音楽之友社、2013年
- 池辺晋一郎『ドヴォルザークの音符たち 池辺晋一郎の「新ドヴォルザーク考」』音楽之友社、2014年
文責:学生指揮者 クラリネット3年 石川未夕
ご挨拶
指揮者より
演奏会当日に果たしてどのような状況で皆さまにこの挨拶を読んでいただいているのでしょうか。
昨年より世界的な流行が始まった新型コロナウイルスはご存知の通り日本でも社会に大きな悪影響を与えていますが、大学オーケストラもまた同様にその活動に大きな制限がかかっています。
日々変わる感染状況、先の展開が予想出来ない中で、学生たちは次々と立ち現れる難局に屈することなく正面から向き合い、大学当局や顧問の先生方の協力を得て、その時々に可能な活動の形を模索してオーケストラを存続させるべく奮闘を続けてきました。
二度と来ない自分自身の学生生活を少しでも充実させたい、大好きな音楽や仲間との合奏を可能な限り続けたい、長年受け継いできた音楽部の伝統を途絶えさせたくない、学生たちの思いは様々でしょう。また、昨年まだ何も分からない中長いトンネルの中で歯を食いしばってこのオーケストラを守ってくれた前年度の先輩達から託された思いにこの演奏会開催で報いたい、そういう決意で必死に頑張ってくれた学生も少なくないと思います。一人一人それぞれが熱量の高い思いを胸に秘めて今日まで過ごしてきました。
ある意味で今までとは違った意味を持つこの特別な演奏会に参加する一員として、私自身もその責任の重さに身が引き締まる思いです。厳しい練習を続けてきた学生たちが本番の舞台で披露する素晴らしい演奏を例年と同じように客席の皆さまに楽しんでいただきたいと強く願っております。どうか本日その願いが全き形で叶いますように。
しかし、私達のそんな思いをよそに、事態が良くない方向に進んでしまう可能性も現時点では残念ながら捨て切れません。たとえそうであったとしても、というよりそれならなお一層、音楽に没頭する貴重な時間を学生たちとどっぷり共有することでせめて彼らの努力に心からの尊敬を捧げたい、そんな思いでリハーサルに通い続けて参りました。
この困難な時に音楽が私達の心の支えになってくれていることへの感謝、あたたかく応援してくださっている皆さまへの感謝を胸に一同ステージに立ちます。
本日はお忙しい中足をお運び下さり誠にありがとうございます。色とりどりの名曲の森の中へと皆さまとご一緒に分け入ってゆく、楽興尽きぬひと時になりますように。
中田延亮
学生指揮者より
こんにちは!本会場にお越しいただきまして、誠にありがとうございます。
この第60回定期演奏会は2019年の秋から少しずつ準備が始まりました。しかし、いざ2021年の春にもなりますと、当初は思いもしなかったことばかりが起きています。わたしたちは、刻一刻と変わる状況のなかで常に考え行動し続け、何があろうと演奏会を成功させたいという一心で活動してまいりました。限られた時間や場所でどう工夫して練習していくか、離れていても自分の考えや状況を共有すること、日々の活動であらゆる壁にぶつかりながらもどうにかこうにか堪えて、ようやっと山頂にたどりつこうとしています。こだわって作ったこのリモート会場も、そうした思いを形にした結果のひとつといえるでしょう。
さて、本演奏会では中田延亮先生を指揮にお迎えし、ドヴォルザークの交響曲第8番をメイン曲として演奏いたします。牧歌的で美しい、印象的な旋律が随所に盛り込まれている作品です。今回は皆さまと直接お会いすることが叶わず、大変残念な思いでございますが、集まって音楽ができる喜び、お互いが健康でいま生きていることの素晴らしさを噛みしめながら、精いっぱい演奏いたします。
最後になりますが、熱くご指導くださりました指揮者の中田延亮先生、トレーナーの先生方、諸先生方、ご尽力賜りましたすべての方々に感謝申し上げます。ここまで長いご挨拶を読んでいただきまして本当にありがとうございます!ひとりでも多くの方に楽しんでいただけますと幸いです。
学生指揮者 石川未夕
管弦楽団責任者より
お忙しい中アクセスして頂きありがとうございます。
チケットをご購入頂いた方には直前の変更となりご迷惑お掛け致しました。
リモート会場ということで飲食も可能ですので、どうぞごゆっくりお茶もお召し上がりながらご覧いただければと思います。
さて、この演奏会に向けた本格的な練習は昨年12月から約半年の期間です。この半年間は「緊急事態宣言、延長」が2度もあり、思うようには行きませんでした。
その分毎回の合奏がとても貴重で、いつも以上に集中して取り込んできたと思います。みんなで同じ空間で合わせることの楽しさが皆様にも伝わるといいなと思います。
この半年はいつも先が見えず、演奏会をしてる様子は想像出来ませんでした。目前に控えた今でも自分がステージにいる姿を完全に想像することは出来ませんが、「開催できるか」の不安以上に「開催できるかもしれない」喜びを感じられるようになりました。自分たちで出来ることを日々工夫し、ここまで来れたことを嬉しく思います。
開催にあたり私たちの活動にご理解・ご協力いただいた加藤先生、時安先生をはじめとする学校関係者の皆様、そしてこの会場にお越しくださった全ての皆様に団員一同深く感謝致します。
管弦楽団責任者 武田南美